書評課題

大学の課題で、写真集の書評を書きました

800字程度の規定だったため、あまり大した量ではありませんが……

そしてあまり核心をついてないなあと

書きたいことがまだまだあったので、それに加筆した形で

ちょっと長めに構成しなおした書評を

まだまだブラッシュアップする余地がありそうですが

 

題材は『film A moment / TK(from Ling Tosite Sigure)

 

 

 

 アーティストというものはごく稀に、何をやらせても遺憾無く才能を発揮し、腹立たしい程に器用で、そして様になる種の人間がいる。そういった人に限って、他者よりもよっぽど感受性が強く、そして脆く儚い。『film A moment』の作者、ロックバンド“凛として時雨”でフロントマンを勤める、TKこと北嶋徹もその一人だろう。

 ソロ・プロジェクトの第一弾として発表されたこの作品は、北嶋がスコットランドアイルランドを旅した際に、自身の私物であるフィルムカメラ(LUBITEL166+,KLASSE,Vivitar Ultra Wide&Slim)で撮影した写真、借り物の8mmカメラで撮影し、映像作家・島田大介により編集された映像、音楽で構成された1冊となっている。全編100ページを超える数々の写真と、旅行記が数点、加えてDVDに収録されたスライドショーと映像を含めると、かなりのボリュームである。

 本業である音楽でも、透き通っていて冷たく、ひりひりとした痛みを持ったような世界感を表現し、凄く人間的で、それがある意味狂気的ともとれる、そんな作風を得意とする北嶋だが、写真でもその確固たる核心部分は揺らいでいなかった。一枚一枚の写真に、本人が体験した、まるで永遠のような時間が詰め込まれている。きっと、本人の目の前に在った「切り取りたいと思った世界」はもっと広くて、目に見えたものの全ては写せなくて、目には見えなかったはずのものが写っていたりして……そんな、感情や五感全てで感じたものが溢れ出しそうな、あまりにも純粋で美しく、気取らない写真に私は泣きそうになった。

 昨今、深く学ばずとも誰にでも写真が撮れる時代になった。一方、大学という場で知識を身に付けた私は、どんなにそれを振り払ったとしても、意図せずとも作為的な写真を撮ってしまう。その、ある種の枷になるものを私はもう取ることは出来ない。だからこそこんなにも、技術や作法抜きで感情のままに撮られた写真に惹かれ、揺さぶられてしまうのだろう。

 DVDに収録されているスライドショーとインストゥルメンタルの楽曲、また、映像作品は、上手く写真集の世界、北嶋が旅で見たもの・感じたことで構成されていて、内容のリンクが素晴らしい。アートワークと音楽、それを同一人物が制作する意義はその一貫した世界感を保持するためと、親和性だと考える。

 そして作品を観終わった後、満たされたはずなのに、何故か寂寥感でいっぱいになった。それはまさに、凛として時雨の音楽のそれと同じである。北嶋のフィルターを通して観た世界は脆く儚く美しく、どの写真もページからこぼれ落ちそうで、必死に記憶に繋ぎ止めておきたい、そう思わされた。そしてもう一度その世界に没頭したくなり、再び表紙をめくるのだ。